オレンジ色の時間。
2021年10月23日
かつて一緒に暮らしたリスがいた。北米生まれのコロンビアジリス、気が強い女の子だった。そのまんまだがコロンと名付けた。2004年に迎え入れて4年半ほど一緒に暮らした。小動物の飼育は初めての体験で驚きの連続。とても充実した日々だったが、一緒に暮らす難しさもしみじみと感じた。何よりも小動物の寿命はとても短い。10年は生きて欲しいと願っていた。だが現実は、いつも残酷だ。ようやく気持ちが分かりかけた頃の2008年9月26日にコロンは亡くなった。当時は失望感にあふれて何もする気が起きなかった。なぜならば、我が子のように想い接していたからだ。体調の異変に気づくと、仕事をそっちのけで病院へ向かった。まもなく命日を迎えるため、追悼記事を綴らせていただきたい。
コロンは中型のリスだったが、小動物に分類される。中でもジリスは土に穴を掘り集団で暮らす習性があるようだ。ペットショップで見かけて以来、絶対に連れて帰ろうと決意。その為にもと、24年続けた喫煙をキッパリと止めた。コロンが快適に生活できるようにと様々な物品を買い揃えて準備した。2004年の夏が終わる頃、コロンを迎え入れた。初日からトイレの場所を覚えたとても頭の良い子だった。コロンを迎え入れて数ヶ月後の休日。廊下を使って運動させていた時の事。コロンは玄関へ移動して妻のスニーカーの中に入っていた。またイタズラをしているのだろうかと後ろから見ていた矢先。ジョ〜という音とともに、スニーカーの中へおしっこをしたのだ。まるでおじさんのような仁王立ち状態で。私は怒ることもなく、後ろから静かに見ていた。あの奇妙で愉快な光景は今も鮮明に覚えている。
あの頃は小動物の習慣や習性が分からず、毎日が驚きと勉強の日々だった。自分の身体の何倍も大きな私と暮らしていながら物怖じしない強い気性。怒ると私の人差し指に歯を立てて思い切り噛み切った。コロンに指を噛み切られると大出血。傷が癒えるまでに数ヶ月を要した。周りからは私の性格にそっくりだと揶揄されたが、とても楽しい日々だった。だが何事にも終わりは必ずやってくる。2008年の9月26日、コロンは突然亡くなった。あくまでも推測だが原因は肥満だと理解している。当時はコロンを亡くした事で心に大きな穴が開き、いつまでも自分を責め続けた。そして立ち直るのに長い時間を要した。あれから17年経ち、亡くなった悲しみはほぼ癒された気がする。今はコロンが亡くなった時の悲しみを忘れて、楽しい日々だけを時折思い出すようにしている。
ひまわりの種、エンドウ豆、バナナ、りんご、菓子パン、カップラーメン、アイスクリーム、いずれもコロンが大好きだった食べ物である。カップラーメンについては、冷ました麺だけを少量与えたことがあった。匂いを嗅ぐなりちゅるちゅると器用に吸い込み食べていた。小動物に人間の食物を与えることは肥満になりやすいため良くないと言われている。そんな事はご法度と分かっていたのだが、あまりにも好奇心旺盛で食べっぷりが良いため、ついつい与えてしまっていた。真夏の暑い日には、グラスに冷えたウーロン茶を入れてコロンの前に差し出した。コロンはグラスから直接飲んでいた。
コロンと暮らした4年間で私が学んだ事は多い。人間が動物と一緒に生活する事は楽しい事だが、動物側から考えると楽しくなかったかもしれない。動物が人間と生活する為には、少なからず制約を受けるからだ。また人間と生活を共にすることで受けるストレスも多いはず。その為には四六時中体調に留意しなければならない。だが人間には人間の生活がある。働いているならばなおさらの事。持てる全ての時間を動物のために費やす事ができないのであれば、飼育しないという選択肢もあるのではないだろうか。コロンと暮らした頃の自分は43歳。その私が今や60歳だ。全ての時間を費やして、コロンを最優先に考えていた時代だった。リビングが柔らかな夕陽に包まれたひと時。あのオレンジ色の時間は二度と戻らない。幸せな時だった。ありがとう、コロン。忘れないよ。
☆And I love Her/Paul McCartney (2013 Live)
https://www.youtube.com/watch?v=fiqy_Uuo5gY