退役、近鉄12200系

2021年11月6日

★デビュー時の12200系

今は亡き父の影響を受けたのか、幼い頃から鉄道ファンである。もちろん鉄道車両自体に興味はあるのだが、マニアというほどではない。知識を得ることは好きなのだが、細かい事に拘るのが嫌いな性分。言ってみれば生粋の鉄道マニアというよりも、電車に揺られて駅弁に舌鼓を打つお気軽な鉄道ファンという方が正しい。そこで今回は、お気軽鉄道ファンの想いを綴らせていただく。

★現在の12200系 デビュー時の特急マークと表示灯の形状が変更されている。
          塗装はオレンジ色が濃くなり、ブルーは明るくなっている。

ある鉄道車両がラストラン(引退記念乗車会)を迎える。近鉄12200系、通称「新スナックカー」と呼ばれる車両である。12200系は1970年に開催された大阪万博の観光需要を担って開発された特急車両。1969年から8年に渡って製造された。その後は近鉄特急のスタンダードとなり166両が在籍。近鉄特急車の中では最大勢力になっていた。12200系製造当時の日本は右肩上がりの経済成長で、鉄道の輸送需要がピークを迎えていた時代。そのような背景で製造された12200系は、長期に渡り近鉄特急の屋台骨を支えてきた優等車両である。つい最近まで現役であったのだが、2020年3月、最新特急車である80000系「ひのとり」がデビューした事により定期運用から外されていた。理由を一言で言えば老朽化である。何分にも設計年度が古いため、時代のニーズに合わなくなった事が最大の要因。車両外観やインテリアなど、更新を続けて延命を図ってきたのだが、遂に最期の時を迎える事になった。

12200系は穏やかな顔立ちで育ちの良さを感じるデザインが特長。最小の2両編成から10両編成まで対応可能な汎用特急車の位置付けであった。「新ビスタカー」と呼ばれた10100系から始まったダークブルーとサニーオレンジのボディカラーを踏襲して汎用特急車の役割を50年間果たした功績は大きい。華やかなデザインが主流の私鉄特急車両の中では地味な存在だったが、近鉄特急最大の功労者と言って良いだろう。因みに12200系はお召し列車(皇族が使用する特別列車)として三度採用された記録を誇る。中でも1975年にエリザベス女王が来日の際は、京都-五十鈴川駅、鳥羽-近鉄名古屋駅を12200系が担当。終着駅ではエリザベス女王が運転士を呼び寄せて謝意を示し、記念品を贈呈されたという。

私は生まれも育ちも名古屋であるが、地元の名鉄よりも近鉄の方に思い入れが強い。その理由は簡単だ。名鉄は縄張り意識が強く閉鎖的。一方の近鉄は開放的であり、成長のためには投資を惜しまない雰囲気があるからだ。両者とも大手私鉄であり有名車両は数多くある。名鉄は「パノラマカー」、「パノラマスーパー」近鉄は「ビスタカー」「エースカー」「スナックカー」「サニーカー」など多彩である。「パノラマカー」は私が生まれた年の1961年デビュー。2009年に引退。「新ビスタカー」は1959年デビュー、1979年に全車引退している。つまり私が生まれた同年代に製造された車両の殆どは現役を退いている。この季節になると、有名人やスポーツ選手の引退が報道されて寂しく思うものだが、人に尽くしてきた工業製品、とりわけ電車や自動車などが役目を終えて、静かに引退していく話を聞くと、より一層寂しさが募るものである。

去りゆく物と新しく生まれる物。致し方のない事ではあるが、物の生まれた背景に時代の面影を感じる事は少なくない。ネーミング、色彩やデザインなど、一つ一つに時代の息ぶきが感じられるのも興味深い。12200系に付けられた愛称は「スナックカー」隣にキレイなお姉さんが座ってくれる電車?んな事はない。名阪特急車内において軽食を提供するサービスを始めようと付けられた愛称である。軽食の提供は、近鉄グループである都ホテルが担当。サービス開始当初はみやこコーナーと呼ばれていたこともある。実を言うと「スナックカー」は2種類存在する。プロトタイプとして先行したのが12000系「スナックカー」その改良型が12200系「新スナックカー」という訳だ。ボディカラーはデビュー時からサニーオレンジとダークブルーの2トーンであるが、外観更新の際、塗り分けの処理や色味のリニューアルを行っている。私の世代は近鉄特急といえばこの塗装が連想されるが、12200系の退役で見納めとなってしまった。余談ではあるが、現在の近鉄特急は白をベースにした新塗装だがこれはいただけない。デザイン学校の生徒が考案したようなレベルで好きになれない。稚拙で品の良さが感じられないのだ。時代が変わったのか、それとも自分の感覚が年老いたのだろうか。おそらくどちらも正解なのだろう。

中学校時代の夏休み。自由研究に選んだテーマは近鉄特急だった。近鉄名古屋駅ビルの営業局に出向いて趣旨を説明。社内誌をいただき読破した。車両撮影は許可を得て米野(こめの)検車区を来訪。スナックカーの車内設備を撮影した。また大学受験の際は、京都で乗車した事を今も鮮明に覚えている。あれから40年。ビスタカーの人気が高いため、名脇役と呼ばれてきた12200系だが、今や主役として退役を迎えることに時の流れを感じている。ラストランは11月20日。大勢のファンに見送っていただきたい。さよなら12200系。

☆Driving Rain/Paul McCartney(2002 LIVE)
https://www.youtube.com/watch?v=N6-AY1iMmcs