あの日を忘れない。

2022年3月21日

東日本大震災から11年を迎えた3月11日は、全国各地で様々な追悼番組が放送された。大震災で亡くなられた方、行方不明の方は二万二千人以上と言われている。私が見た中で最も印象に残った番組は、NHKのこころフォト「あなたを忘れない11年目の手紙」である。この番組は、亡くなられた方を紹介して、ご遺族や繋がりがある方々の想いを綴るプログラム。女優の鈴木京香さんがかたりべを務めて、多くの犠牲者が紹介されていた。中でも私の心が震えたものは、我が子三人を失ったご夫妻の生きる姿を紹介したものである。ご夫妻は宮城県石巻に在住の50代。18歳の長女、16歳の次女、12歳の長男の三名を失われた。

番組では時の流れとともに、ご夫妻の心境の変化が明らかにされていく。震災直後のご主人は、子供を亡くした事で生きる気力が失せ、いつも死にたいと思っていたという。人は誰しも大きな悲しみに遭遇すると、必要以上に自分を責めてしまうものだ。我が子を亡くしたご主人の心中察するに余りある。その結果として、当時のご夫妻の関係にも影響を与えたようだ。悲しみが深いご主人からすれば、心穏やかな奥様の対応が自分の気持ちに劣ると考えたのかもしれない。震災以降のご主人は心を閉ざした状態に陥り、離婚届を何度も書いたという。私に子供はいないが、ご主人の気持ちは痛いほど理解できる。あくまでも推測だが、奥様はいつまでも悲しみに暮れていては、子供達も悲しむのではないかと考えたのだろう。我が子を失ったご夫妻に哀悼の気持ちの差などあるはずが無い。奥様は子供を失った後でも、母親として生きていくと誓っているのだ。

この番組を見て、私が最も感銘を受けた事は、素晴らしい奥様の笑顔と心意気である。悲しい時や辛い時に涙を流す事は容易い。だが奥様は今も母親の立場でにこやかに生活しておられた。また悲観に暮れるだけでなく、今の自分に出来ることをしたいと、復興事業に携わる方々へ食事を提供する仕事に従事されている。奥様の笑顔が生きる喜びを生み、ご主人をはじめに、多くの人へ伝播していく様子が手に取るように理解できた。大きな悲しみを乗り越えていく人の姿は、何者にも代え難い価値がある。

番組の冒頭では、子供達がいない人生など生きる価値が無いと語っていたご主人だが、時の経過と共に自分が生きなければ大切な人を助けることができないと心境の変化も伺える。ご主人が立ち直るきっかけは、自分を頼りに思ってくれる奥様の存在が大きいと語っておられたのが印象的だった。番組の終盤、長女の母校から講演を依頼された際には、何よりも自分の命を優先にしてくださいと訴える。自分が生きていなければ、大切な人を助ける事もできません。そして現在のご主人は死にたいとは思わなくなった。死にたい気持ちは子供達に失礼だと噛み締めるように呟いた。我が子を助けられなかった無念を断ち切り、亡くなった子供達のためにも生きなければという想いがひしひしと伝わってきた。

三人の尊い命が一瞬にして消え去った切ない現実。我が子を想い、今も子供達の朝食を作り続けている母親の姿には心が揺さぶられる。番組の最後で母親はこのように綴っている。この先一番の不安は、愛する子供達の表情や仕草が一年づつ記憶が薄れてしまうのではないかと。お父さんお母さんのことは心配しないで、 天国でみんな仲良く暮らしてくださいね。ただお父さんのこと見守ってあげてね。お父さんお母さんのもとへ産まれてきてくれてありがとう。そして‥ごめんね。

In My Life