ブログ閲覧数第一位記念特別版 本記事を成田亨氏に捧げる マイティジャック再び 2022年5月5日
かつてフジテレビ系列で放送された「マイティジャック」を旧ブログで綴った。マイティジャックは少年時代の私が最も興味を抱いたSFテレビドラマ。そしてこの記事がブログ閲覧数第一位になった事は既にお知らせした。これもひとえに皆様のおかげである。そこで今回は、閲覧数第一位記念として特別版を制作した。旧ブログで綴ったPART1は3年前に制作。特別版はPART1への追記形式で制作したため、一部表現に異なる部分が存在する。何卒ご容赦いただきたい。特別版制作においては、番組を知らない方でもお分かりいただけるように心がけた。多くの方にご覧いただければ嬉しい。
マイティジャック は1968年に放送されたテレビ番組。防衛・建設・救助を目的に、民間企業の出資で設立された秘密組織「マイティジャック」が悪の組織Qと闘う物語り。一言でいえば日本版サンダーバードの位置付けである。円谷プロダクションが制作したウルトラシリーズの一環だが、ウルトラマンのようなヒーローは登場しない。科学技術を結集して建造された万能戦艦マイティ号がその象徴と設定された。マイティジャックのメンバーは11人。普段はそれぞれの仕事をしているのだが、召集がかかるとマイティ号が格納された海底基地に集結する設定。隊長にはベテラン俳優の二谷英明、副長にはウルトラセブンにも出演していた南廣、そしてウルトラシリーズに欠かせない二瓶雅也など、個性豊かな面々がキャスティングされていた。制作費1000万円以上、土曜夜8時から1時間枠で放送が開始された。大人の鑑賞に耐えうるSFドラマとして各界から注目されたのだが、蓋を開けてみれば大誤算。鳴かず飛ばずの低視聴率で僅か1クールで打ち切りが決定した。それ故に悲運の特撮番組と呼ばれている。
ではなぜそのような結果になってしまったのか。結論から言えば脚本が単調すぎて、番組のコンセプトを十分に表現できなかったのが最大の要因。低視聴率の原因は他にもある。放送当時のエンタメといえばプロ野球。巨人戦の中継ともなれば視聴者が釘付けの時代だった。そのような背景も低視聴率の要因だが、メカの描写に力を入れ過ぎて、ドラマの完成度が著しく低いと結論づけされた。だが費用をかけた特撮は、当時としては最高レベル。彫刻家の成田亨(なりた とおる)氏がデザインを起こしたマイティ号は、現代でも通用する素晴らしい造形。番組で成田氏が手がけたメカデザインは、今も多くのファンの支持を得ている。主役のマイティ号をはじめに、ピブリダー、エキゾスカウト、コンクルーダーなど、記憶に残るメカデザインを産み出した功績は極めて大きい。今更だが単調な脚本が最大の弱点となり、視聴率という海から浮上できず、打ち切りになった事は残念でならない。本記事では今一度マイティジャックへの想いを綴り、完結させたい。
マイティジャックの打ち切り決定後、コンセプトはそのままに、子供向けドラマに設定変更した「戦え!マイティジャック」が制作された。メンバーは11人から5人に変更。キャストは南廣が隊長に昇格。隊員は二瓶雅也のみ存続、新たに3名がキャスティングされた。本稿では「戦え!マイティジャック」も「マイティジャック」と同様に位置付けて記述する。記事構成は以下の通り①メカのデザイン②撮影秘話③キャスト秘話④総括
マイティジャックで様々なメカデザインを起こした成田亨(なりた とおる)氏は青森県出身の彫刻家。ウルトラシリーズにおける経歴はウルトラQの美術監督からスタート。その後ウルトラマン、ウルトラセブンを経てマイティジャックで様々なメカデザインを制作された。以前の記事でも触れたが、成田氏の制作ポリシーはトータルデザインである事。デザインは部分的な作業ではなく、造形、カラーリング、シンボルマークなど、全てを一環して制作・管理する事でマイティジャックの世界観を作り上げた。その結果として、番組に登場するメカが作り物ではなく、現実に存在しているかのように感じられる事が最大の功績と言えるだろう。実を言えば、これこそがデザインの意味であり、仕事の本質なのだ。成田氏の掲げるトータルデザインにより、メカに命を吹き込んだ。
ウルトラマンに登場したジェットビートル、ウルトラセブンに登場したウルトラホーク、ポインター、いずれも成田氏の作品であり、当時の少年たちが心をときめかせたメカである。そして氏の集大成作品がマイティ号と言えるだろう。マイティ号に憧れた少年らは私と同世代のはず。艦首が尖った特徴的なデザインは、今見ても惚れ惚れするカッコよさ。一度見たら絶対に忘れられない。ボディには艦載機の発進口を備え、艦首から艦尾まで違和感ないようにデザインされている。これほどまでに洗練されたメカデザインは他にない。当時発売されていたプラモデルのボックスアートは、画家の小松崎茂氏が描いたマイティ号。現在は希少品とされプレミアがついている。また近年開催された「特撮博物館」ではマイティ号の撮影用模型をプロが修復。展示・公開されて大きな話題になった。
撮影に使用されたマイティ号は5メートルから10センチ程度まで、数種類の模型が製作された。驚くべき点は模型の材質である。関係者によれば、その殆どは木製だったという。現代ならばレジンで製作するか、あるいは全てCGで表現できるだろう。だが当時はそれぐらいしか手段がなかったのだ。特撮は模型を使うため、ぶつけたり、落としたりで、破損する場合が多い。また水中撮影が多いマイティ号は使用不可になるのが早かったという。スタジオの狭いプールを利用した撮影は苦労の連続。特撮監督の元、大きなマイティ号を、より大きく、よりかっこよく見せたいと知恵を絞った。スタッフ一丸となり、マイティ号と格闘した日々だったという。
どちらが正しい?
放送当時、ファンの間で話題になった話がある。撮影用のマイティ号は2種類用意されているのでは?というものだ。その理由はブリッジ窓のデザイン処理である。マイティ号のブリッジは上部と下部に分かれているが、下部の窓が一段と二段の物が存在しているのだ。あくまでも推測だが、初期設定は一段だったものが後に二段に変更されたのではないだろうか。特撮は費用が嵩むため、一度に撮り溜めして使い回される事が多い。それ故に編集で混在したのだろうというのが私の結論。
昔はこれが当たり前
マイティジャックで行われた特撮は操演(そうえん)と呼ばれるクラシックな手法。当時の日本はまだCG合成がなかった時代。マイティ号や敵の戦闘機は模型をピアノ線で吊り、様々な動きを表現していた。だが操演の弱点は糸が見えてしまう可能性がある事だ。それを防ぐため、ピアノ線にはカモフラージュが施されたが、照明で光ってしまい、バレバレな事も多々あった。マイティジャックが放送終了の翌年。CG合成を試みた作品がアメリカで制作された。それがスタートレックである。スタートレックの特撮は、スターシップ「エンタープライズ」の大型模型を制作。船体は支柱で固定されており、様々な動きを表現する事が容易い構造である。そして撮影された映像から支柱を消して宇宙と合成していたのだ。技術や文化的な価値観が異なる日本と海外のSFドラマを比較するのはいけないかもしれないが、様々なプロセスの積み重ねが現代の特撮に繋がっていったのだ。因みにスタートレックは、既に模型制作の必要はなく、全編CGで制作可能という。
マイティジャックアラカルト
マイティジャックの番組企画を初めて聞いた特撮監督は、007やスパイ大作戦のようなイメージを抱いていたらしい。
マイティジャックの隊長に抜擢された二谷英明さんは、大物俳優としての存在感が際立っていたという。撮影時のスタッフによれば、監督が二瓶雅也さんに演技指導をした際、主演の二谷英明さんにこう言われたという。「監督、二瓶さんだけでなく、私にも演技指導してください」これに対して監督は「貴方に演技指導は必要ないでしょう」と笑って返したという。監督も二谷さんには一目置いていたのだろう。
マイティ号の水中シーンはスタジオのプールを利用して行った。だがスタジオのプールは狭い上に使いづらかったらしい。またホリゾントの隙間が目立たないように、レンズにワセリンを塗って撮影した事もあるという。
ウルトラセブンに登場した宇宙ステーションV3の無線室はマイティ号のセットがそのまま使用されている。そのシーンに登場したクラタ隊長を演じたのは、マイティジャックの副長天田一平を演じた南廣さん。MJファンなら思わずニヤリとする場面だ。
マイティジャックは日本で設立された秘密組織という設定だが、諸般の事情から国籍不明にしなければならない事もあり苦労したという。第一話の「パリに消えた男」に登場する道路の撮影は、開通前の東名高速道路で行ったロケ。海外に見せるため、右側通行で撮影したという。
隊員服のブレザーは紳士服のエドワーズから提供されたもの。しっかりした作りで着心地が良かったそうだが、撮影用のため、内ポケットがなかったらしい。見栄え優先が鉄則だったのだろう。
戦え!マイティジャックの女性隊員江村奈美は番組出演を機に役名を芸名にした稀有な例。番組出演前の芸名は川奈美沙。また撮影当初に用意された隊員服の裏地にはマイティジャックで桂めぐみ隊員を演じた久保菜穂子の名前が書かれていたという。(お下がりだったのだ)因みに江村奈美さんのご主人は小川隊員を演じた渚 健二さんである。
戦え!マイティジャックの江村奈美さんは火薬のスペシャリストの設定だったが、爆発シーンの撮影は怖かったという。ある時は、はめていた白手袋が焦げてしまい、それ以降は2枚重ねて着用したという。また番組のオープニングシーンは、爆発音が大きいため、座っている事で精一杯の状況だったという。ご本人曰く「あのシーンは何回撮り直したのかも分からない」
第十話「爆破司令」で酔っ払いが酒場で暴れるシーンについて「うちのお酒を好む人にあんな非常識な人はいません」とサントリーから苦情が来たという。(ウソのような本当の話である)
村上隊員を演じた天本英世さんは東大卒だが、何度も変更される台本を覚えるのに苦労したらしい。これを聞いた監督は決定稿以前の台本を配布しないように徹底したという。
テーマ曲は世界の富田勲が作曲
マイティジャックは番組で使用された楽曲も魅力の一つである。テーマ曲はシンセサイザー奏者の冨田勲氏が作曲。印象的なイントロで始まる楽曲は、大人のSFドラマを感じさせるもので、マイティジャックのスケール感を表現した。世界的なアーティストにテーマ曲を依頼した事からも、作品に対する製作者の情熱が感じられる。当時の撮影スタッフによれば、富田さんは作品自体も興味を抱き、撮影見学に来ていたという。一度耳にしたら決して忘れられない楽曲である。
外国人俳優の起用がグローバルなイメージを作り上げた
マイティジャックは大人向けSFドラマ設定のため、日本の有名俳優と外国人俳優を積極的に起用していた。中でも特筆すべき点は外国人俳優の台詞である。台詞は英語で収録されて、吹き替えされずに放送されていた。例えば戦闘シーン。日本語ならば「ミサイル発射!」となるのだが、外国人俳優の場合「launch the missle!」ラァンチィ・ザ・ミスォーと聞こえてドラマがリアルに感じられた。また一方では放送上、曖昧にしなければならない事もあり、番組に登場する市町村名は全て架空の設定であった。第十話の爆破司令では三浦半島→三隅半島に変更していた。余談ではあるが1982年に公開されたスタートレック2では主演のウィリアム・シャトナーがコンピュータに命令を下すシーンで「コンピュータ!」というセリフが電算機と訳されて字幕に出ていた。これを見た観客から失笑が起きたのだ。要は製作側よりもファンの方が理解力があるという事か。
源さん逝く
ウルトラシリーズに欠かせない二瓶雅也(にへい まさなり)さんは1940年に生まれたドイツ人のハーフ。ウルトラマンでは科学特捜隊のイデ隊員、マイティジャックでは源田隊員を演じた。いずれの役柄も情熱家でありながら、ユーモアに溢れた心の持ち主の設定。マイティジャックでは各話のキーパーソン的役割も務めた。特筆すべき点は愛嬌がある風貌だろうか。ウルトラシリーズにおいては他のメンバーにない顔立ちのため、男性化粧品のCMにも出演した経歴を持つ。1990年以降は不動産業を営み、俳優業から退いていた。その頃から体型が変化。若い頃とは変わり巨漢になっていた。マイティジャック唯一の存命男優として、イベント等で元気な姿を見せてくれていたが、2021年8月21日に誤嚥性肺炎で死去された。配偶者は写真家の福島晶子さん。謹んでご冥福をお祈りします。
キレイなお姉さんは好きですか?
マイティジャックはゲストも多彩で各界から注目された。当時小学生の自分にとっては、美人の女優さんや女性タレントがゲスト出演する事もあり、特別な番組の感があった。放送当時の記憶を紐解き、思いつくままに列挙させていただく。「マイティジャック」では以下の方々
■燃えるバラに出演した参議院議員の山東昭子さん
■怪飛行船作戦に出演した女優の八代万智子さん
■パリに消えた男に出演した女優の応蘭花さん
■爆破司令に出演した俳優の佐竹明雄さん
■怪飛行船作戦に出演したタレントの松岡きっこさん
「戦え!マイティジャック」では以下の方々
■ウルトラセブンでダンを演じた森次晃嗣さん
■ウルトラセブンでソガを演じた阿知波信介さん(故人)
■希望の空へ飛んでいけ!に出演した女優の真山知子さん
ミスターM.J.は誰?
もし私が選ぶのであれば、沈着冷静な隊長ではなく、人情味溢れる副長天田一平を演じた南廣(みなみ ひろし)さんを選ぶ。南さんは元ミュージシャン。ジャズドラマーを経て俳優デビュー、ウルトラセブンに登場した宇宙ステーションV3のクラタ隊長を演じた。ウルトラシリーズにゆかりがある俳優である。南さんは男前で声も良い。マイティジャックの打ち切り後は後番組「戦え!マイティジャック」の隊長役に抜擢された。晩年は自身が代表を務めるプロモーション企業「サウス」を設立。クロスタニンのCM出演で元気な姿を見せてくれたが、60歳で死去されている。
子供心にキレイな人だなぁと思った真山さん
戦え!マイティジャックの最終回にゲスト出演した真山知子さんは監督から真っ赤な口紅をつけてくださいと指示されて、人喰い人種みたいで嫌だなぁと思っていたが、(放送を見て)監督のアドバイス通りにして良かったという。また戦闘機のコクピットが精密な出来栄えにも驚いたという。真山さんは演出家蜷川幸雄氏の夫人であり、写真家蜷川実花の母である。現在はキルト作家としても活躍されている。
ゲンゴロウ!超ヒチ!
戦え!マイティジャックの「マイティ号を取り返せ!」にゲスト出演した森次晃嗣さんの出演当時は視聴率で苦戦していた頃。森次さんのゲスト出演はウルトラセブンの終了直後。番組で共演した二瓶さんとは旧知の間柄。丁々発止のやりとりでファンの笑いを誘った。劇中で呼び合うあだ名はゲンゴロウ(源田隊員)と超ヒチ(超7=ウルトラセブン)胸のポケットから赤いペンチを取り出すシーンはウルトラセブンに変身するパロディ。笑いどころ満載の回だった。
私が選ぶSFメカデザインベスト3
旧ブログで綴った際はファンが選出したベスト3を掲載したが、今回は独断と偏見で私がベスト3を選ばせていただく。いずれのメカも私にとっては憧れであり、甲乙つけ難いものである。
現代でも通用するカッコいいデザイン
マイティ号のデザインを起こした成田亨氏によれば、もはや大型艦の時代ではないと策定。重巡洋艦高雄をベースに考案したという。動力源はプラズマエンジンと原子力エンジンのハイブリッド設定。水空両用の戦艦と定義された。マイティ号のデザインについて特筆すべき点はボディ両側に艦載機の発進口が設けられている事だ。これこそがマイティ号最大の見せ場であるが、通常発信口は目立つようにデザインされる場合が多い。だがマイティ号の場合は、流麗なボディデザインを損なうことがないように、一体感を持たせて処理されている。この辺りが成田氏の優れたデザインのなせる技と言えよう。
怪獣なんて要らない
特別版の制作にあたり再びDVDを見て作品を検証した。私がマイティジャックを好む最大の理由は、素晴らしいメカのデザインを作り上げて、大人向けのSFドラマを作りたいという心意気である。この事は、戦え!マイティジャックを除き、かつての日本製SFドラマに不可欠な侵略者=怪獣の類いが一切出てこない事で明白だ。マイティジャックにおける侵略者は、秘密結社Qに心を奪われた人間と定義設定されている。ここが他のSFドラマと一線を画す部分であり、人は心の在り方次第で善悪どちらにも変われると視聴者に考えさせる。これが本作品のテーマなのだ。あくまでも私見だが、ここに重点を置いた脚本であれば、番組の価値観も変わり、もっともっと大空を飛行できたのではないかと考える。
お二人のM.J愛と情熱がマイティ号の修復を可能にした
大型予算を組み、一流の人材を集結させたマイティジャックが結果を出せなかったのは事実だ。だが近年のデジタル技術により映像が修復されて、鮮明画像のDVDがリリースされた。また昨今は大型で精密なフィギィアも発売されており、新しいファン層の開拓が進んでいるのは喜ばしい。本記事の制作にあたり、近年修復された模型画像を掲載させていただいた。記事タイトル下の5枚がそれに当たる。カラーリングを含めて忠実に再現された模型は、マイティジャックに想いを寄せるヱヴァンゲリヲン新劇場版の監督庵野秀明さんが復元を熱望。修復師の肩書を持つ原口智生さんの想いが重なり実現したものだ。復元されたマイティ号は全長約3メートル。原口さんが集めたマイティ号の残骸40%ほどを元に、残りの部分を新規に制作して完成したという。MJ愛と情熱が生み出した奇跡の再現と言えるだろう。
成田氏の参加なくしては実現出来なかった
私にとってのマイティジャックは、デザインの意味を具現化して教えてくれた作品と認識している。この番組を見て以来、デザインという仕事に惹かれた私はグラフィックデザイナーを目指した。一般には理解しづらい、デザインの意味と役割を示してくれた成田氏の参加なくしては、マイティジャックは実現出来なかっただろう。改めて成田亨氏に敬意を表すと共に、マイティジャック十二番目のメンバーは成田亨氏と記して終わりたい。マイティ号は希望の空へ飛び続ける(完)
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2022年5月5日
かつてフジテレビ系列で放送された「マイティジャック」を旧ブログで綴った。マイティジャックは少年時代の私が最も興味を抱いたSFテレビドラマ。そしてこの記事がブログ閲覧数第一位になった事は既にお知らせした。これもひとえに皆様のおかげである。そこで今回は、閲覧数第一位記念として特別版を制作した。旧ブログで綴ったPART1は3年前に制作。特別版はPART1への追記形式で制作したため、一部表現に異なる部分が存在する。何卒ご容赦いただきたい。特別版制作においては、番組を知らない方でもお分かりいただけるように心がけた。多くの方にご覧いただければ嬉しい。
マイティジャック は1968年に放送されたテレビ番組。防衛・建設・救助を目的に、民間企業の出資で設立された秘密組織「マイティジャック」が悪の組織Qと闘う物語り。一言でいえば日本版サンダーバードの位置付けである。円谷プロダクションが制作したウルトラシリーズの一環だが、ウルトラマンのようなヒーローは登場しない。科学技術を結集して建造された万能戦艦マイティ号がその象徴と設定された。マイティジャックのメンバーは11人。普段はそれぞれの仕事をしているのだが、召集がかかるとマイティ号が格納された海底基地に集結する設定。隊長にはベテラン俳優の二谷英明、副長にはウルトラセブンにも出演していた南廣、そしてウルトラシリーズに欠かせない二瓶雅也など、個性豊かな面々がキャスティングされていた。制作費1000万円以上、土曜夜8時から1時間枠で放送が開始された。大人の鑑賞に耐えうるSFドラマとして各界から注目されたのだが、蓋を開けてみれば大誤算。鳴かず飛ばずの低視聴率で僅か1クールで打ち切りが決定した。それ故に悲運の特撮番組と呼ばれている。
ではなぜそのような結果になってしまったのか。結論から言えば脚本が単調すぎて、番組のコンセプトを十分に表現できなかったのが最大の要因。低視聴率の原因は他にもある。放送当時のエンタメといえばプロ野球。巨人戦の中継ともなれば視聴者が釘付けの時代だった。そのような背景も低視聴率の要因だが、メカの描写に力を入れ過ぎて、ドラマの完成度が著しく低いと結論づけされた。だが費用をかけた特撮は、当時としては最高レベル。彫刻家の成田亨(なりた とおる)氏がデザインを起こしたマイティ号は、現代でも通用する素晴らしい造形。番組で成田氏が手がけたメカデザインは、今も多くのファンの支持を得ている。主役のマイティ号をはじめに、ピブリダー、エキゾスカウト、コンクルーダーなど、記憶に残るメカデザインを産み出した功績は極めて大きい。今更だが単調な脚本が最大の弱点となり、視聴率という海から浮上できず、打ち切りになった事は残念でならない。本記事では今一度マイティジャックへの想いを綴り、完結させたい。
マイティジャックの打ち切り決定後、コンセプトはそのままに、子供向けドラマに設定変更した「戦え!マイティジャック」が制作された。メンバーは11人から5人に変更。キャストは南廣が隊長に昇格。隊員は二瓶雅也のみ存続、新たに3名がキャスティングされた。本稿では「戦え!マイティジャック」も「マイティジャック」と同様に位置付けて記述する。記事構成は以下の通り①メカのデザイン②撮影秘話③キャスト秘話④総括
マイティジャックで様々なメカデザインを起こした成田亨(なりた とおる)氏は青森県出身の彫刻家。ウルトラシリーズにおける経歴はウルトラQの美術監督からスタート。その後ウルトラマン、ウルトラセブンを経てマイティジャックで様々なメカデザインを制作された。以前の記事でも触れたが、成田氏の制作ポリシーはトータルデザインである事。デザインは部分的な作業ではなく、造形、カラーリング、シンボルマークなど、全てを一環して制作・管理する事でマイティジャックの世界観を作り上げた。その結果として、番組に登場するメカが作り物ではなく、現実に存在しているかのように感じられる事が最大の功績と言えるだろう。実を言えば、これこそがデザインの意味であり、仕事の本質なのだ。成田氏の掲げるトータルデザインにより、メカに命を吹き込んだ。
ウルトラマンに登場したジェットビートル、ウルトラセブンに登場したウルトラホーク、ポインター、いずれも成田氏の作品であり、当時の少年たちが心をときめかせたメカである。そして氏の集大成作品がマイティ号と言えるだろう。マイティ号に憧れた少年らは私と同世代のはず。艦首が尖った特徴的なデザインは、今見ても惚れ惚れするカッコよさ。一度見たら絶対に忘れられない。ボディには艦載機の発進口を備え、艦首から艦尾まで違和感ないようにデザインされている。これほどまでに洗練されたメカデザインは他にない。当時発売されていたプラモデルのボックスアートは、画家の小松崎茂氏が描いたマイティ号。現在は希少品とされプレミアがついている。また近年開催された「特撮博物館」ではマイティ号の撮影用模型をプロが修復。展示・公開されて大きな話題になった。
撮影に使用されたマイティ号は5メートルから10センチ程度まで、数種類の模型が製作された。驚くべき点は模型の材質である。関係者によれば、その殆どは木製だったという。現代ならばレジンで製作するか、あるいは全てCGで表現できるだろう。だが当時はそれぐらいしか手段がなかったのだ。特撮は模型を使うため、ぶつけたり、落としたりで、破損する場合が多い。また水中撮影が多いマイティ号は使用不可になるのが早かったという。スタジオの狭いプールを利用した撮影は苦労の連続。特撮監督の元、大きなマイティ号を、より大きく、よりかっこよく見せたいと知恵を絞った。スタッフ一丸となり、マイティ号と格闘した日々だったという。
どちらが正しい?
放送当時、ファンの間で話題になった話がある。撮影用のマイティ号は2種類用意されているのでは?というものだ。その理由はブリッジ窓のデザイン処理である。マイティ号のブリッジは上部と下部に分かれているが、下部の窓が一段と二段の物が存在しているのだ。あくまでも推測だが、初期設定は一段だったものが後に二段に変更されたのではないだろうか。特撮は費用が嵩むため、一度に撮り溜めして使い回される事が多い。それ故に編集で混在したのだろうというのが私の結論。
昔はこれが当たり前
マイティジャックで行われた特撮は操演(そうえん)と呼ばれるクラシックな手法。当時の日本はまだCG合成がなかった時代。マイティ号や敵の戦闘機は模型をピアノ線で吊り、様々な動きを表現していた。だが操演の弱点は糸が見えてしまう可能性がある事だ。それを防ぐため、ピアノ線にはカモフラージュが施されたが、照明で光ってしまい、バレバレな事も多々あった。マイティジャックが放送終了の翌年。CG合成を試みた作品がアメリカで制作された。それがスタートレックである。スタートレックの特撮は、スターシップ「エンタープライズ」の大型模型を制作。船体は支柱で固定されており、様々な動きを表現する事が容易い構造である。そして撮影された映像から支柱を消して宇宙と合成していたのだ。技術や文化的な価値観が異なる日本と海外のSFドラマを比較するのはいけないかもしれないが、様々なプロセスの積み重ねが現代の特撮に繋がっていったのだ。因みにスタートレックは、既に模型制作の必要はなく、全編CGで制作可能という。
マイティジャックアラカルト
マイティジャックの番組企画を初めて聞いた特撮監督は、007やスパイ大作戦のようなイメージを抱いていたらしい。
マイティジャックの隊長に抜擢された二谷英明さんは、大物俳優としての存在感が際立っていたという。撮影時のスタッフによれば、監督が二瓶雅也さんに演技指導をした際、主演の二谷英明さんにこう言われたという。「監督、二瓶さんだけでなく、私にも演技指導してください」これに対して監督は「貴方に演技指導は必要ないでしょう」と笑って返したという。監督も二谷さんには一目置いていたのだろう。
マイティ号の水中シーンはスタジオのプールを利用して行った。だがスタジオのプールは狭い上に使いづらかったらしい。またホリゾントの隙間が目立たないように、レンズにワセリンを塗って撮影した事もあるという。
ウルトラセブンに登場した宇宙ステーションV3の無線室はマイティ号のセットがそのまま使用されている。そのシーンに登場したクラタ隊長を演じたのは、マイティジャックの副長天田一平を演じた南廣さん。MJファンなら思わずニヤリとする場面だ。
マイティジャックは日本で設立された秘密組織という設定だが、諸般の事情から国籍不明にしなければならない事もあり苦労したという。第一話の「パリに消えた男」に登場する道路の撮影は、開通前の東名高速道路で行ったロケ。海外に見せるため、右側通行で撮影したという。
隊員服のブレザーは紳士服のエドワーズから提供されたもの。しっかりした作りで着心地が良かったそうだが、撮影用のため、内ポケットがなかったらしい。見栄え優先が鉄則だったのだろう。
戦え!マイティジャックの女性隊員江村奈美は番組出演を機に役名を芸名にした稀有な例。番組出演前の芸名は川奈美沙。また撮影当初に用意された隊員服の裏地にはマイティジャックで桂めぐみ隊員を演じた久保菜穂子の名前が書かれていたという。(お下がりだったのだ)因みに江村奈美さんのご主人は小川隊員を演じた渚 健二さんである。
戦え!マイティジャックの江村奈美さんは火薬のスペシャリストの設定だったが、爆発シーンの撮影は怖かったという。ある時は、はめていた白手袋が焦げてしまい、それ以降は2枚重ねて着用したという。また番組のオープニングシーンは、爆発音が大きいため、座っている事で精一杯の状況だったという。ご本人曰く「あのシーンは何回撮り直したのかも分からない」
第十話「爆破司令」で酔っ払いが酒場で暴れるシーンについて「うちのお酒を好む人にあんな非常識な人はいません」とサントリーから苦情が来たという。(ウソのような本当の話である)
村上隊員を演じた天本英世さんは東大卒だが、何度も変更される台本を覚えるのに苦労したらしい。これを聞いた監督は決定稿以前の台本を配布しないように徹底したという。
テーマ曲は世界の富田勲が作曲
マイティジャックは番組で使用された楽曲も魅力の一つである。テーマ曲はシンセサイザー奏者の冨田勲氏が作曲。印象的なイントロで始まる楽曲は、大人のSFドラマを感じさせるもので、マイティジャックのスケール感を表現した。世界的なアーティストにテーマ曲を依頼した事からも、作品に対する製作者の情熱が感じられる。当時の撮影スタッフによれば、富田さんは作品自体も興味を抱き、撮影見学に来ていたという。一度耳にしたら決して忘れられない楽曲である。
外国人俳優の起用がグローバルなイメージを作り上げた
マイティジャックは大人向けSFドラマ設定のため、日本の有名俳優と外国人俳優を積極的に起用していた。中でも特筆すべき点は外国人俳優の台詞である。台詞は英語で収録されて、吹き替えされずに放送されていた。例えば戦闘シーン。日本語ならば「ミサイル発射!」となるのだが、外国人俳優の場合「launch the missle!」ラァンチィ・ザ・ミスォーと聞こえてドラマがリアルに感じられた。また一方では放送上、曖昧にしなければならない事もあり、番組に登場する市町村名は全て架空の設定であった。第十話の爆破司令では三浦半島→三隅半島に変更していた。余談ではあるが1982年に公開されたスタートレック2では主演のウィリアム・シャトナーがコンピュータに命令を下すシーンで「コンピュータ!」というセリフが電算機と訳されて字幕に出ていた。これを見た観客から失笑が起きたのだ。要は製作側よりもファンの方が理解力があるという事か。
源さん逝く
ウルトラシリーズに欠かせない二瓶雅也(にへい まさなり)さんは1940年に生まれたドイツ人のハーフ。ウルトラマンでは科学特捜隊のイデ隊員、マイティジャックでは源田隊員を演じた。いずれの役柄も情熱家でありながら、ユーモアに溢れた心の持ち主の設定。マイティジャックでは各話のキーパーソン的役割も務めた。特筆すべき点は愛嬌がある風貌だろうか。ウルトラシリーズにおいては他のメンバーにない顔立ちのため、男性化粧品のCMにも出演した経歴を持つ。1990年以降は不動産業を営み、俳優業から退いていた。その頃から体型が変化。若い頃とは変わり巨漢になっていた。マイティジャック唯一の存命男優として、イベント等で元気な姿を見せてくれていたが、2021年8月21日に誤嚥性肺炎で死去された。配偶者は写真家の福島晶子さん。謹んでご冥福をお祈りします。
キレイなお姉さんは好きですか?
マイティジャックはゲストも多彩で各界から注目された。当時小学生の自分にとっては、美人の女優さんや女性タレントがゲスト出演する事もあり、特別な番組の感があった。放送当時の記憶を紐解き、思いつくままに列挙させていただく。「マイティジャック」では以下の方々
■燃えるバラに出演した参議院議員の山東昭子さん
■怪飛行船作戦に出演した女優の八代万智子さん
■パリに消えた男に出演した女優の応蘭花さん
■爆破司令に出演した俳優の佐竹明雄さん
■怪飛行船作戦に出演したタレントの松岡きっこさん
「戦え!マイティジャック」では以下の方々
■ウルトラセブンでダンを演じた森次晃嗣さん
■ウルトラセブンでソガを演じた阿知波信介さん(故人)
■希望の空へ飛んでいけ!に出演した女優の真山知子さん
ミスターM.J.は誰?
もし私が選ぶのであれば、沈着冷静な隊長ではなく、人情味溢れる副長天田一平を演じた南廣(みなみ ひろし)さんを選ぶ。南さんは元ミュージシャン。ジャズドラマーを経て俳優デビュー、ウルトラセブンに登場した宇宙ステーションV3のクラタ隊長を演じた。ウルトラシリーズにゆかりがある俳優である。南さんは男前で声も良い。マイティジャックの打ち切り後は後番組「戦え!マイティジャック」の隊長役に抜擢された。晩年は自身が代表を務めるプロモーション企業「サウス」を設立。クロスタニンのCM出演で元気な姿を見せてくれたが、60歳で死去されている。
子供心にキレイな人だなぁと思った真山さん
戦え!マイティジャックの最終回にゲスト出演した真山知子さんは監督から真っ赤な口紅をつけてくださいと指示されて、人喰い人種みたいで嫌だなぁと思っていたが、(放送を見て)監督のアドバイス通りにして良かったという。また戦闘機のコクピットが精密な出来栄えにも驚いたという。真山さんは演出家蜷川幸雄氏の夫人であり、写真家蜷川実花の母である。現在はキルト作家としても活躍されている。
ゲンゴロウ!超ヒチ!
戦え!マイティジャックの「マイティ号を取り返せ!」にゲスト出演した森次晃嗣さんの出演当時は視聴率で苦戦していた頃。森次さんのゲスト出演はウルトラセブンの終了直後。番組で共演した二瓶さんとは旧知の間柄。丁々発止のやりとりでファンの笑いを誘った。劇中で呼び合うあだ名はゲンゴロウ(源田隊員)と超ヒチ(超7=ウルトラセブン)胸のポケットから赤いペンチを取り出すシーンはウルトラセブンに変身するパロディ。笑いどころ満載の回だった。
私が選ぶSFメカデザインベスト3
旧ブログで綴った際はファンが選出したベスト3を掲載したが、今回は独断と偏見で私がベスト3を選ばせていただく。いずれのメカも私にとっては憧れであり、甲乙つけ難いものである。
現代でも通用するカッコいいデザイン
マイティ号のデザインを起こした成田亨氏によれば、もはや大型艦の時代ではないと策定。重巡洋艦高雄をベースに考案したという。動力源はプラズマエンジンと原子力エンジンのハイブリッド設定。水空両用の戦艦と定義された。マイティ号のデザインについて特筆すべき点はボディ両側に艦載機の発進口が設けられている事だ。これこそがマイティ号最大の見せ場であるが、通常発信口は目立つようにデザインされる場合が多い。だがマイティ号の場合は、流麗なボディデザインを損なうことがないように、一体感を持たせて処理されている。この辺りが成田氏の優れたデザインのなせる技と言えよう。
怪獣なんて要らない
特別版の制作にあたり再びDVDを見て作品を検証した。私がマイティジャックを好む最大の理由は、素晴らしいメカのデザインを作り上げて、大人向けのSFドラマを作りたいという心意気である。この事は、戦え!マイティジャックを除き、かつての日本製SFドラマに不可欠な侵略者=怪獣の類いが一切出てこない事で明白だ。マイティジャックにおける侵略者は、秘密結社Qに心を奪われた人間と定義設定されている。ここが他のSFドラマと一線を画す部分であり、人は心の在り方次第で善悪どちらにも変われると視聴者に考えさせる。これが本作品のテーマなのだ。あくまでも私見だが、ここに重点を置いた脚本であれば、番組の価値観も変わり、もっともっと大空を飛行できたのではないかと考える。
お二人のM.J愛と情熱がマイティ号の修復を可能にした
大型予算を組み、一流の人材を集結させたマイティジャックが結果を出せなかったのは事実だ。だが近年のデジタル技術により映像が修復されて、鮮明画像のDVDがリリースされた。また昨今は大型で精密なフィギィアも発売されており、新しいファン層の開拓が進んでいるのは喜ばしい。本記事の制作にあたり、近年修復された模型画像を掲載させていただいた。記事タイトル下の5枚がそれに当たる。カラーリングを含めて忠実に再現された模型は、マイティジャックに想いを寄せるヱヴァンゲリヲン新劇場版の監督庵野秀明さんが復元を熱望。修復師の肩書を持つ原口智生さんの想いが重なり実現したものだ。復元されたマイティ号は全長約3メートル。原口さんが集めたマイティ号の残骸40%ほどを元に、残りの部分を新規に制作して完成したという。MJ愛と情熱が生み出した奇跡の再現と言えるだろう。
成田氏の参加なくしては実現出来なかった
私にとってのマイティジャックは、デザインの意味を具現化して教えてくれた作品と認識している。この番組を見て以来、デザインという仕事に惹かれた私はグラフィックデザイナーを目指した。一般には理解しづらい、デザインの意味と役割を示してくれた成田氏の参加なくしては、マイティジャックは実現出来なかっただろう。改めて成田亨氏に敬意を表すと共に、マイティジャック十二番目のメンバーは成田亨氏と記して終わりたい。マイティ号は希望の空へ飛び続ける(完)