聞いてないよぉ。

2022年6月5日

コロナ禍といわれて早二年。今日まで多くの方が亡くなられた。中でも記憶に新しいのはコメディアンの志村けんさん、女優の岡江久美子さんであろうか。お二人の死去により、コロナウィルスに対する危機意識が高まったのは事実だろう。一方では、ストレスに起因する有名人の自殺も増えている。直近では俳優の渡辺裕之さん、そして志村けんのバカ殿様に出演していたダチョウ倶楽部の上島竜兵さんである。上島さんといえば、志村さんを人生の師匠と呼び尊敬していた。また志村さんも上島さんを可愛がり、飲み仲間としても有名な間柄だった。志村さんがイタズラを仕掛けて、上島さんが「聞いてないよぉ〜」と返す。これを受けて志村さんが「言ってないもん」と続ける掛け合いはもう見る事ができない。上島さんが自殺を決意したのはなぜだろう?という疑問が残る。

上島さんは私と同じ61歳である。報道によれば、初老期うつ病による自殺ではないかとの指摘がある。初老期うつ病は、何らかの喪失体験がきっかけになる事が多いという。喪失体験とは、大切なものを失ったと感じて思い詰める事を意味する。例えば、コロナ禍で経済的損失が生じた。また加齢により、体の自由が効かなくなった等である。自分はもうダメだと思い詰めて、自ら命を絶つ心境に至ったのではないかという分析だ。このような心境になる人は、老いを認めたくない人ほど傾向が強いという。この論理を知った際、同じ年齢の私は理解できるような気がした。なぜならば、自分にも喪失体験があるからだ。私の場合は50代後半から、集中力の持続が難しいと感じるようになった。また視力の衰えも著しい。例えば昨今、ピンセットで掴んだ物を落としてしまい、行方不明になる事が多い。なぜこんな簡単な事ができなくなったのか!自分に腹が立ち、やり場のない怒りが込み上げてくる。そんな自分の姿を見て、更に怒りが込み上げてくるのだ。

上島さんの自殺は、ファンのみならず、様々な人々に波紋が広がった。誰からも親しまれていた上島さんがなぜ自殺する必要があるというのか。だれもがそう思ったはずだ。それが証拠に、奥様をはじめ、ダチョウ倶楽部のメンバーも自殺の兆候に気付かなかったようだ。そして今回の報道で、知り得た事がある。世界のどこの国を見ても、自殺は女性よりも男性の割合が高いという。これは男性の方が、喪失体験に対して脆弱だからだという。この見解には納得できる部分が多い。あくまでも私見であるが、女性は男性に比べて、現実を受け入れる能力が高いと思うからだ。一方で男性は、失いたくないと考える人が多いと思う。いずれにしても自ら命を絶つ行為は、結果的に周囲の人々に苦悩を与える事になる。たとえどんなに苦しい状況であっても、生き続ける選択肢を取る事は出来なかったのだろうか。

誰もが歳を重ねて老いていく。これは自然の摂理で、仕方がないのだ。自分に出来ない事はない!という考え方が自分自身を追い詰めていく。これが最も危険なのだ。私の場合、一昨年に脳出血を患った事で生き方や考え方を大きく変えた。結論は頑張り過ぎない事。老いていく自分を認めて受け入れる。歳を重ねていく事を楽しもうと考えるようにしている。何事にも努力は必要だろう。だが過分な努力は、自分自身を追い詰めて、悲劇の引鉄になる事もある。人生は良い事ばかりではない。現実を受け入れて、諦める勇気も必要なのだ。私のように還暦を超えた人間からすれば、世の中が変化していく中で生きていく事は辛い時もある。そんな時は、なるほどねと聞き流すようにしている。せっかく与えられた人生だ。命果てるまで生き続ける。それだけで十分だ。

In My Life