間違いだらけの業界伝説❸ 2022年7月2日
業界の裏話を綴る本シリーズは今回が三回目だ。デザイン学校に通っていた頃、ある講師から商品撮影の秘話を聞いた事がある。その講師は当時現役のグラフィックデザイナー。各方面で活躍されていた方だった。ビールのポスターデザインを依頼されて、商品撮影にも立ち会ったという。試し撮影用のポラロイド写真を見て、今ひとつ美味しそうに見えないと判断。アシスタントをコンビニまで行かせてシェービングクリームを購入させたという。そして撮影本番。泡を豊かに見せるべく、シェービングクリームを混ぜて撮影したと語っていた。ウソや冗談ではない。商品撮影ではよくある事なのだ。広告を見る側は全て真実だと思うのは当然だろう。だが全てが真実とは限らない。
次は同業者のディレクターから聞いた話である。ある大手企業のサービスメニューを記したリーフレット制作を依頼されたという。リーフレットとは、主に二つ折りの小さなパンフレットを示す。クライアント(発注主)のデザインチェックは無事に通過。その後印刷工程に進み十日ほど経過したある日、頼み事があると呼び出されたらしい。頼み事の内容を尋ねたところ、表紙に写る女性モデルの顔を変えて欲しいと言われたという。それを聞いたディレクターは冗談かと思ったらしい。モデル撮影には、それなりの時間と費用がかかる。しかもリーフレットは印刷直前状態である。今更再撮影などできるはずがない。だが客先は大手企業だ。今後に支障をきたさないように、やむなく承諾したという。ディレクターは、社内の女性スタッフをモデルさんに見立てて再撮影。なんと製版過程で首から上をすげ替えたという。ウソのようなホントの話である。本来ならば契約上問題になるはずだが、モデルさんご本人及び事務所には伝えなかったので何事もなかったという。
モデルさんを使って商品撮影する機会は度々あった。モデルさんを依頼する際は、事前にカタログから候補者を選び、モデル事務所に電話を入れる。その際には撮影の趣旨と内容、拘束時間などを説明。その後ギャラを提示して詰めていく。モデルさんにはギャラのランクがある。例えば5並びでお願いしますならば、55,555円を示す。3並びは33,333円である。モデルさんは個人扱いのため、源泉取得税を引いた額でお支払いする事になる。5並びは手取り50,000円、3並びは手取り3万円である。この金額にモデル事務所が合意すれば交渉成立。直ちにスタジオを抑えなければならない。通常ならばこのまま撮影になる。だが予期せぬ事が原因となり、現場で中止になる事もある。その場合はお詫びとして、モデルさんにタクシー代をお支払いして終了となるのだ。
グラフィックデザイナーとして東京で生活した6年は長くも短くもあった。結論としては、良い思いをした経験が殆どないのだ。大した収入も得られずに、いつも時間に追われていた日々だった。人間関係もギスギスしていた。還暦を超えた現在、デザインの仕事から遠ざかっているが、仕事で知り得た知識は今も自分自身の中に息づいている。そしてその知識は、メルカリなどに出品する際の商品説明や画像撮影などに役立っている。現役当時は嫌で仕方がなかった事ばかりだが、今は楽しみながらできるようになっている。グラフィックデザイナーとしては三流だったが、今後はflea market master(フリー・マーケット・マスター)として生活していく目標も定めた。目指すは超二流である。多くの皆様に支えられた日々はジ・エンド。これからは思うままの人生を送らせていただく。次回はシリーズ最終回。業界のウソをバラします。
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2022年7月2日
業界の裏話を綴る本シリーズは今回が三回目だ。デザイン学校に通っていた頃、ある講師から商品撮影の秘話を聞いた事がある。その講師は当時現役のグラフィックデザイナー。各方面で活躍されていた方だった。ビールのポスターデザインを依頼されて、商品撮影にも立ち会ったという。試し撮影用のポラロイド写真を見て、今ひとつ美味しそうに見えないと判断。アシスタントをコンビニまで行かせてシェービングクリームを購入させたという。そして撮影本番。泡を豊かに見せるべく、シェービングクリームを混ぜて撮影したと語っていた。ウソや冗談ではない。商品撮影ではよくある事なのだ。広告を見る側は全て真実だと思うのは当然だろう。だが全てが真実とは限らない。
次は同業者のディレクターから聞いた話である。ある大手企業のサービスメニューを記したリーフレット制作を依頼されたという。リーフレットとは、主に二つ折りの小さなパンフレットを示す。クライアント(発注主)のデザインチェックは無事に通過。その後印刷工程に進み十日ほど経過したある日、頼み事があると呼び出されたらしい。頼み事の内容を尋ねたところ、表紙に写る女性モデルの顔を変えて欲しいと言われたという。それを聞いたディレクターは冗談かと思ったらしい。モデル撮影には、それなりの時間と費用がかかる。しかもリーフレットは印刷直前状態である。今更再撮影などできるはずがない。だが客先は大手企業だ。今後に支障をきたさないように、やむなく承諾したという。ディレクターは、社内の女性スタッフをモデルさんに見立てて再撮影。なんと製版過程で首から上をすげ替えたという。ウソのようなホントの話である。本来ならば契約上問題になるはずだが、モデルさんご本人及び事務所には伝えなかったので何事もなかったという。
モデルさんを使って商品撮影する機会は度々あった。モデルさんを依頼する際は、事前にカタログから候補者を選び、モデル事務所に電話を入れる。その際には撮影の趣旨と内容、拘束時間などを説明。その後ギャラを提示して詰めていく。モデルさんにはギャラのランクがある。例えば5並びでお願いしますならば、55,555円を示す。3並びは33,333円である。モデルさんは個人扱いのため、源泉取得税を引いた額でお支払いする事になる。5並びは手取り50,000円、3並びは手取り3万円である。この金額にモデル事務所が合意すれば交渉成立。直ちにスタジオを抑えなければならない。通常ならばこのまま撮影になる。だが予期せぬ事が原因となり、現場で中止になる事もある。その場合はお詫びとして、モデルさんにタクシー代をお支払いして終了となるのだ。
グラフィックデザイナーとして東京で生活した6年は長くも短くもあった。結論としては、良い思いをした経験が殆どないのだ。大した収入も得られずに、いつも時間に追われていた日々だった。人間関係もギスギスしていた。還暦を超えた現在、デザインの仕事から遠ざかっているが、仕事で知り得た知識は今も自分自身の中に息づいている。そしてその知識は、メルカリなどに出品する際の商品説明や画像撮影などに役立っている。現役当時は嫌で仕方がなかった事ばかりだが、今は楽しみながらできるようになっている。グラフィックデザイナーとしては三流だったが、今後はflea market master(フリー・マーケット・マスター)として生活していく目標も定めた。目指すは超二流である。多くの皆様に支えられた日々はジ・エンド。これからは思うままの人生を送らせていただく。次回はシリーズ最終回。業界のウソをバラします。