恵まれた天才逝く 2023年6月11日
また一人優れた芸人さんが逝ってしまった。関西お笑い界の大御所。華麗なる話術で名を馳せた上岡龍太郎さん(81)。一世を風靡した伝説の漫才グループ。漫画トリオのメンバーである。その優れた才能は多岐に渡る。ラジオ番組のDJ、テレビ番組の司会者、漫才師、講談師、落語家等々。いずれも言葉巧みに展開する語り口は上岡さんならではのものだった。私が上岡さんを知ったのは子どもの頃に見た地元ローカルのテレビ番組だった。軽妙なやり取りで司会進行する上岡さんは、ギャグなど使わずに喋りで魅了する正統派の芸人さんだと感じていた。
上岡さん一番の持ち味は、ユーモア溢れる軽妙な語り口。そして鋭い視点が挙げられる。当時ご自身のキャッチフレーズにしていたものがある。「芸は一流、人気は二流。ギャラは三流。恵まれない天才上岡龍太郎です」というものだった。このキャッチフレーズを聞いただけでも頭のキレが良く、見識が高い人だと分かる。そしてニコリとしながら切れ味鋭い毒舌を吐くスタイルは、上岡さん一番の魅力であった。僕は東京の仕事は絶対に受けない。なぜなら東京は笑いの感度が低い。あんなところでお笑いができるわけがない。歯に衣着せぬ発言も度々あったが、その真意は東京人を馬鹿にしたものではなく、東京の仕事を欲しがる芸人仲間と番組制作者へ向けた皮肉でもあった。
私は俗っぽいテレビ番組が嫌いなだけに、上岡さんが出演する番組は注目してきた。中でも東京から名古屋へ戻った頃に始まったEX(エックス)テレビは最高に面白かった。EXテレビは伝説の番組である11PM(イレブンPM)の後番組である。最も面白かったのは超常現象を否定する企画。霊能者や評論家が出演してトークバトルを繰り広げた。上岡さんは超常現象否定派である。肯定派の見解をことごとく覆す様相になっていた。ところが一人だけ、上岡さんに喰ってかかったゲストがいた。恐らく放送ではカットされていたと思うが、上岡さんはそのゲストの座っている場所へ向かい、頭をはたいたらしい。「幽霊?そんなもんおるかい!人は死んだらそれで終わりや」間違っていることには間違っているぞと声を上げる。世間に媚びず、信念を貫く人だった。
その後10年ほどはテレビを中心に活躍されていたが、21世紀に入ると自分の芸は通用しないだろうと引退を決意。そして言葉通りに引退された。その潔さも素晴らしいものだった。不祥事を起こしても仕事にしがみつく三流タレントとは雲泥の差がある。仕事仲間をはじめに大勢の芸人さんが上岡さんを慕っていたのも頷ける。その一人がかつて漫才師として活躍した島田紳助さんである。彼は上岡さんが引退を決意した際には手紙を送ったという。「上岡さんは自分の道標のような存在でした。だから引退しないでください」これに対して上岡さんは「キミは随分前から僕の前を走っているんだよ」と返した。この手紙を読んだ紳助さんは涙が止まらなかったという。気を衒わず本業を極めた上岡さんの生きざまには憧れる。毒舌の裏側には、常に思いやりと愛情が感じられる人だった。さようなら上岡さん。貴方は恵まれた天才です。
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2023年6月11日
また一人優れた芸人さんが逝ってしまった。関西お笑い界の大御所。華麗なる話術で名を馳せた上岡龍太郎さん(81)。一世を風靡した伝説の漫才グループ。漫画トリオのメンバーである。その優れた才能は多岐に渡る。ラジオ番組のDJ、テレビ番組の司会者、漫才師、講談師、落語家等々。いずれも言葉巧みに展開する語り口は上岡さんならではのものだった。私が上岡さんを知ったのは子どもの頃に見た地元ローカルのテレビ番組だった。軽妙なやり取りで司会進行する上岡さんは、ギャグなど使わずに喋りで魅了する正統派の芸人さんだと感じていた。
上岡さん一番の持ち味は、ユーモア溢れる軽妙な語り口。そして鋭い視点が挙げられる。当時ご自身のキャッチフレーズにしていたものがある。「芸は一流、人気は二流。ギャラは三流。恵まれない天才上岡龍太郎です」というものだった。このキャッチフレーズを聞いただけでも頭のキレが良く、見識が高い人だと分かる。そしてニコリとしながら切れ味鋭い毒舌を吐くスタイルは、上岡さん一番の魅力であった。僕は東京の仕事は絶対に受けない。なぜなら東京は笑いの感度が低い。あんなところでお笑いができるわけがない。歯に衣着せぬ発言も度々あったが、その真意は東京人を馬鹿にしたものではなく、東京の仕事を欲しがる芸人仲間と番組制作者へ向けた皮肉でもあった。
私は俗っぽいテレビ番組が嫌いなだけに、上岡さんが出演する番組は注目してきた。中でも東京から名古屋へ戻った頃に始まったEX(エックス)テレビは最高に面白かった。EXテレビは伝説の番組である11PM(イレブンPM)の後番組である。最も面白かったのは超常現象を否定する企画。霊能者や評論家が出演してトークバトルを繰り広げた。上岡さんは超常現象否定派である。肯定派の見解をことごとく覆す様相になっていた。ところが一人だけ、上岡さんに喰ってかかったゲストがいた。恐らく放送ではカットされていたと思うが、上岡さんはそのゲストの座っている場所へ向かい、頭をはたいたらしい。「幽霊?そんなもんおるかい!人は死んだらそれで終わりや」間違っていることには間違っているぞと声を上げる。世間に媚びず、信念を貫く人だった。
その後10年ほどはテレビを中心に活躍されていたが、21世紀に入ると自分の芸は通用しないだろうと引退を決意。そして言葉通りに引退された。その潔さも素晴らしいものだった。不祥事を起こしても仕事にしがみつく三流タレントとは雲泥の差がある。仕事仲間をはじめに大勢の芸人さんが上岡さんを慕っていたのも頷ける。その一人がかつて漫才師として活躍した島田紳助さんである。彼は上岡さんが引退を決意した際には手紙を送ったという。「上岡さんは自分の道標のような存在でした。だから引退しないでください」これに対して上岡さんは「キミは随分前から僕の前を走っているんだよ」と返した。この手紙を読んだ紳助さんは涙が止まらなかったという。気を衒わず本業を極めた上岡さんの生きざまには憧れる。毒舌の裏側には、常に思いやりと愛情が感じられる人だった。さようなら上岡さん。貴方は恵まれた天才です。