やらかすセールスマン

2023年7月9日

マンションに住んでいると実に様々な人が訪れる。宅配便のドライバー、ネット通販の配達員、クルマのセールスなど。たまに宗教の勧誘もやってくる。宗教の勧誘対応には決めている文言がある。「ごめんなさい。無宗教なので全く関心がありません」「では本をお渡ししてもいいですか?」「無駄なことはやめましょう」これですんなり引き下がってくれる。今回はセールス対応について綴ろう。

数日前のこと。インターホンが鳴った。うちのインターホンはカメラ付きのため、誰が来たのか見て分かる。なかには変顔をして笑いを取ろうと遊ぶ友人もいる。モニターには人の良さそうなおじさんが映っている。「こんにちは、明治乳業です」「ご用件をどうぞ」「玄関まで来てくれますか」(なんだこの失礼なおっさんは!)ドアを開けるといきなり本題を切り出してきた。「明治の牛乳とヨーグルトの宅配を扱っています。お宅でもいかがですか」(ドスーン!)「アラーッ!」セールスマンが持参したパンフレットの束を床に落として一人で騒いでいる。やらかす奴だ。呆れて無言の私に対して相手はキョトンとしている。仕方がないのでこう返した。「手ぶらで来たの?」「‥」予想外だったようだ。契約をとりたいから来たのでしょう。それが目的ならば、飲んでくださいと準備するのが当然でしょう。失礼ながらセールス失格ですよ。私はやることがありますので、お引き取りください。肩を落として帰っていくおじさんを見て私はつぶやいた。だめだこりゃ。

上のキャラクターが誰かお分かりだろうか。藤子不二雄Aさんが描いた「笑ゥせぇるすまん」に登場する喪黒福造である。このアニメは謎のセールスマンである喪黒福造に夢を叶えてもらった人が最後に破滅的な結末を迎えるストーリー。人生の悲哀を感じつつも、笑いに変えるブラックユーモア作品であった。喪黒福造の名刺には肩書きが記されていた。ココロのスキマ‥‥お埋めします なんとも意味深である。ところで喪黒福造のモデルになった人をご存知であろうか。黒縁メガネをかけて豪快な笑い方が特徴。タレントの大橋巨泉さんである。生前の巨泉さんと藤子不二雄Aさんは友人の間柄。巨泉さんは大人が楽しめるブラックユーモアあふれるアニメが見たいと思っていたという。そして巨泉さんの豪快に笑う姿を目の当たりにした藤子不二雄Aさんは、巨泉さんをモデルにしようと思ったという。ウソのようなホントの話しである。実際のところ巨泉さんが司会を務めたテレビ番組「ギミア・ぶれいく」で放送されていた。

実家で暮らしていた頃は同業のセールスマンが訪れて母が対応していたのを思い出す。話しを聞くこと20分ほど。母は紙袋いっぱいのヨーグルトを頂いたと笑っていた。決して試供品が欲しいのではない。話を聞いて欲しいのであれば、まずは食べてくださいと用意するべきである。その用意もないままに、他所の家を訪ねて玄関まで来て欲しいと契約を迫る。相手に対する礼儀と心遣いが欠如している。セールスマンの話を聞くのも労力を要するのだ。今日訪れたセールスマンはヒトの心情が全く分かっていない。だから慌ててやらかすのだ。時代と共に売り方が変化するのは構わない。だが時代が変わっても、人のこころは変わらない。時間を割いていただき、ありがとうございます。この言葉を聞きたかったのですがね。おじさん。

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