思い出の自由研究

2023年10月9日

10100系新ビスタカー(1979年 さよなら三重連運転)

つまらない授業にウンザリしていた中学時代一番の思い出は、夏休みの自由研究であろうか。自由研究とは、好きな物事を調べて発表する課題である。学びを強いられるのではなく、自ら学ぶ力を養うものと認識している。今回は思い出の自由研究について綴ろう。

私が選択したテーマは近畿日本鉄道(以下近鉄と表記) 幼少期から動く物が大好きな私にとり、近鉄は最も親しみを感じる鉄道会社。その理由は母が大阪八尾市の生まれ。里帰りの際は私を連れて近鉄で帰郷していたことが影響している。ご存知のように近鉄といえば、二階建て電車のビスタカーが有名である。東海道新幹線開業以前、名阪間のシェアは近鉄が70%を有していた。この電車に度々乗車した結果、鉄道好きが決定的になった気がする。近鉄は私鉄一番の営業キロ数を誇る。車両も充実しており、鉄道会社の中でも屈指の存在といえよう。自分にピッタリなテーマと感じて取り組んだ記憶がある。

はじめに研究の構成を考えた。①近鉄名古屋支社への取材。②会社の概要と特長。③検車区での撮影による車両の紹介、以上の三本柱と設定した。こうと決めたら怖気付かないうちに動くのが自分流。その場で近鉄名古屋支社へ電話をかけて、自由研究のテーマにしたいと伝えた。担当者は「ではこちらへ来てください」とのこと。日曜日の午前中、近鉄名古屋駅ビル内にある名古屋支社へ出向いた。話を聞いていただいたのは広報の方と記憶している。だが50年以上前のこと。記憶も定かではない。席上でいただいた資料は「最近10年のあゆみ」と題した近鉄の社内誌である。これを読めば最近十年間の出来事が分かりますよといわれた。私から質問した記憶もあるが、残念ながら内容は覚えていない。

名古屋支社から帰宅後、頂いた社内誌を読みふけった。社内誌ならではの興味深い内容が記載されていた。今も覚えているのが二人の現役運転士による対談記事である。「車両も年々高性能になり、現状のままでも160キロ出せるようになりました」「技術部からは、近い将来自動運転が実現するだろうと聞きます」「僕らは電車を運転するのが楽しみだから、それを取り上げられたら何の楽しみもない」こんなのやりとりが記述されていたと記憶している。当時は電車の自動運転など夢のまた夢という感覚であった。だが近年は女性の運転士も活躍しており、時代は確実に変わりつつある。

社内誌を参考に会社概要をまとめて数日後。車両撮影のために富吉(とみよし)検車区へ出かけた。富吉検車区は近鉄富吉駅に隣接している車両基地。名古屋線の車両整備を担当している。まずは事務所で記名。そして用件を記述した。ヘルメットを渡されて着用。留置されているお目当ての車両を撮影した。当時は引退の噂が出ていた10100系新ビスタカー、10400系エースカー、11400系新エースカー等、近鉄ならではの優等車両が留置された光景は圧巻であった。整備員の方も親切で、用意した質問へ丁寧にお答えいただいた。

整備に手間が掛かる車両は?即座に答えが返ってきた。「10100系新ビスタカーです」「製造年度が旧いため故障が多いです。従って常に部品をストックしておかないといけない」とのこと。また車内の撮影中に「車両が移動しますので見学の方は降りてください」とスピーカーで告げられた。撮影後は帰宅して主な車両の特長をレポート用紙にまとめ上げた。そして課題の提出前日、まとめた内容をB2サイズの用紙二枚に手書きで記述。三枚目の用紙に撮影した車両のカラープリントを丁寧に貼り付けた。当時からグラフィックデザイナーの真似ごとをしていたのだ。最後にテーマタイトルの上に近鉄のシンボルマークも描いた。担任の評価は覚えていないが、私がここまでするとは思わなかったと言われたことを記憶している。両親も同様に思っていたらしい。子供時代の思い出はいつまでも記憶に残る。この体験が私の企画力の礎になっているのかもしれない。

近鉄富吉検車区

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