寸草春暉

2024年4月30日

桜を見るなら今日しかないと考えて鶴舞公園(つるまこうえん)を訪れた。鶴舞公園は我が家から地下鉄で40分ほどの距離に位置している。付近には国立名古屋大学病院やイオン千種などがあり、交通の便が良いのが最大のウリ。近年は再開発でイートインスペースが設置され、新名所として名を馳せている。最寄り駅はJRと名古屋市営地下鉄があるのだが、どちらも駅名は鶴舞(つるまい)、だが公園が付くと(つるまこうえん)に変わる。これについては名古屋生まれでも知らない方が多いかもしれない。

名古屋は土曜が終日晴れ予想。日曜以降は下り坂という。地下鉄を降りて徒歩で公園に向かう。地上に出た瞬間から予想通りの人出に驚く。行き交う人々の晴れやかな笑顔を見て、満開への期待が否応にも高まる。園内のあちらこちらにキッチンカーが出店しており、良い香りが立ち込めている。朝食はサンドイッチ一切れで済ませてきたので、何でも良いから食べたい衝動に駆られる。一通りを見渡して玉せんの前で足が止まった。私は妻と異なりあれこれ悩まない性分。これだとチーズ玉せんを注文した。空いているベンチを見つけて妻と仲良く食した。パリパリのせんべいをサクッと噛み切ると、中からトロ〜リと黄身が出てくる。味付けはシンプルに塩胡椒とマヨネーズだろうか。せんべいと卵の黄身、そしてマヨネーズが醸し出す風味を楽しんだ。

今から44年前の春。私は東京で一人暮らしを始めていた。オレンジ色の通勤電車に揺られてデザイン専門学校へ通う日々。あらゆる誘惑を断ち切り、なんとか卒業を果たした。4月1日からデザイン会社へ就職が決まり、春の日差しを感じたいと新宿御苑を訪れたことを思い出す。当時は真夏を思わせる暑さの中で、友人とフリスビーを楽しんでいた。私は黒の半袖Tシャツにブルーのジーンズ。当時痩せていた少年は、肥満気味のおじさんになっている。

先日のこと。実家の母と電話で話した。母は87歳の後期高齢者。2006年にがんが見つかり手術を受けた。その後六年間の通院を果たして、主治医から完治を伝えられた。痛い、苦しいを一切言わなかった母の強さは尊敬に値する。同時期に末期のがんで他界した父を看取った頃は辛い気持ちだったに違いない。私を産み育ててくれた両親に対して、今度は自分が恩返しをする番だ。父の想いを引き継いで、息子としてできることは全てやり遂げる。満開の桜に誓って帰宅した。

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