グラフィックデザイナーのブログ
斜陽のパチンコ業界とデザイン。

2020年10月25日DESIGN STORY

今年の1月、近所のパチンコ店がひっそりと閉店した。

この店は数年前から客が激減していて、客の数よりも従業員の方が多い状態が続いていた。近年近くに大型店が出店以来苦しい経営状態だったのかも知れない。店内は古い台ばかりで新台入れ替え時でも話題の台は殆ど入らずの状態だった。客が少ないから売り上げも下がり経営に余裕が無い。結果店内の機器が故障しても放置の荒れ放題で閉店は時間の問題だった。この店は1990年代の中頃迄連日満員で大繁盛だった。それがなぜこんな状態になったのか。それは昨今パチンコに消費する金額が遊びの範囲を大きく超えてしまい、客に愛想を尽かされた事に他ならない。かつて30兆円産業と言われたパチンコの市場規模は、2017年度は19兆5400億円まで縮小。未だ相当な市場規模ではあるが今や20兆円を切るまで縮小している。パチンコが庶民の娯楽と言われた時代はもはや遠い過去の話。様々なエンタテインメントがある現代では、十分な体力のある大型店しか生き残っていけない冬の時代なのだ。過去には庶民の娯楽と言われたパチンコも今までに二度の大きな転機を迎えている。今回はパチンコ業界について考えて見たい。

パチンコの仕組みを抜本的に変えたデジパチの登場。

最初は1978年に登場したインベーダーゲームの大流行。この時、多数のパチンコ店が閉店を余儀なくされた。当時大勢のサラリーマンが喫茶店にたむろして百円玉を積み上げ、インベーダーゲームに興ずる姿を報じたニュース映像を見た記憶がある人は多いと思う。インベーダーゲームはTAITOが開発したアーケードゲームである。初期はアップライトタイプの筐体であったが、後に出たテーブルタイプで一気に火が付き日本中で大ブームとなった。当時は余りのブームの為かパチンコ店を廃業したり、ゲーム喫茶にリニューアルする店も出た程である。これにパチンコ業界が相当な危機感を感じたのか1980年、大当たりした際に爆発的な出玉を得る事ができるフィーバー機を登場させた。いわゆるデジパチである。これが起死回生の大ヒットとなり業界は再び隆盛を取り戻すことになる。

タイアップ機は莫大な収益を生み出す一方で台の価格高騰を招いた。

フィーバー機が登場以降のパチンコ台はデジパチが主流になってはいたが、当時のパチンコは殆どテーマ性が無いものばかりだった。テーマ性が無いと演出も乏しくなり、プレイヤーはただひたすら大当たりを待つだけの状態となってしまう。そうなるとお客は飽きるのが早くなり自ずと投資金額も減ってしまう。業界もこの辺りを何とかしたかったのかも知れない。それを解消したのが1995年頃から登場したタイアップ機である。タイアップ機は知名度が高い作品のキャラクターや画像素材をパチンコ台に使用できるので、演出やゲーム性がより多彩になり、メーカーの商品企画力を大幅にアップさせる事ができる。この結果タイアップ機は業界に莫大な収益をもたらして市場規模拡大にも大きく貢献した。中でも京楽産業の開発したタイアップ機は、人気時代劇から有名アニメ、果てはハリウッド映画まで多岐にわたり、正に飛ぶ鳥を落とす勢いで業界の勢力地図を一気に変えてしまった。しかしタイアップ機の開発・製造には版権の取得が不可欠になる。当然の様に人気が高い作品ほど版権料は高額になる。その結果パチンコ台の価格も上昇するので店の設備負担が大きくなり、収益を上げる為に出玉を抑制すると言う図式になる。この結果メーカーは大きな収益を上げたが、店は経費負担が増える→出玉を抑える→客の遊興費が膨らむ→客離れが進む→店の収益が更に下がる→という悪循環に陥っていったのではないかと思われる。タイアップ機の登場はこの他にも様々な社会問題も指摘された。最も挙げられたのは借金による家庭崩壊や自己破産、ギャンブル依存症問題である。確かに当時のテレビCMはパチンコメーカーの新機種告知が多く異常な状態だったと言える。そして2000年以降パチンコの遊技人口も緩やかに減少を始める。どのメーカーも出す機種が殆どタイアップ機ばかりでマンネリに陥ってしまいプレイヤーが飽きるのも当然だろう。昨今は、店舗の廃業や製造メーカーの倒産も起きており業界の再編や淘汰が進んでいる。これを解消するのは容易で無く、現状は市場の縮小に歯止めがかからない状況が続いている。

現状は解決策が見つからない業界の苦悩と未来。

ボクが思うに、パチンコ業界衰退の一番の要因は余りにもメーカーが儲けすぎたという事だ。何事も過ぎたるは及ばざるが如し。自滅と言って良いだろう。そもそもパチンコは公営ギャンブルでは無い。法規制はあるものの、自主性に任せた独自の営業形態で、メーカー、店、客の微妙なバランス関係で成立ってきた業界である。しかし製造メーカーの一人勝ちが、この微妙なバランス関係を壊してしまった事で客が嫌気を感じて離れていってしまったのだ。パチンコは今後も法規制が厳しくなり、緩やかに市場の縮小が続いて行くだろう。いずれパチンコ業界はシュリンクしてしまい、カジノに吸収されて行くと推測している。

電気代以外1円も使わずに楽しむパチンコ。
ボクの卓上機コレクション。

ボク自身、以前は店で良く遊ばせてもらった思い出もあるが、ある時を境にキッパリ止めた。以来、思い入れのある台やデザインが楽しいと思う台を卓上機で残したく入手してきた。卓上機とは通常のパチンコ台から球の発射機能と払い出し機能を取り除いたもので、役物の動きとモニター演出のみを楽しむ事ができる玩具である。電源は通常の100Vコンセントから取れる。玉の発射と払い出し機能以外は実機と同様に動作するので遊戯中のBGMと効果音もそのまま聞くことができるしボリュームで音量調整も可能だ。卓上機のメリットは何と言ってもコンパクトで軽い事だ。球を打たないので、あのチンジャラとうるさい払い出し音が一切無いし、球詰まりなどの故障が無いのでメンテも一切不要だ。ボクが現在所有している卓上機は6台あるが、その内の5台は某オークションで入手した。残りの一台は実機の中古台を販売していたショップに卓上加工をオーダーしたもので、英国の名作SFテレビ番組「サンダーバード」をモチーフにしたタイアップの卓上機である。この台は黎明期のタイアップ機で、画面サイズは大変小さいが、何よりもCGが美しい。そして演出もサンダーバードの華と言えるメカの特長が凝縮されていて見ていて実に楽しい。ボクはこの機種には相当な思い入れがあったので、納品された際に若干デコってみた。まずホームセンターで販売している木製のボックスを購入してその中に本体を収納。同じくホームセンターで購入したブルーの樹脂板を使って台の正面に化粧加工を施した。コレは取り外し自由にしてあるので、破損や汚れた際に再加工して取り付けることができる。最後にメーカーのサイトから販促用画像をダウンロードして特殊なステッカー用紙に印刷。コレを正面の下部に貼り付けて完成。これだけでもかなり見栄えが向上する。ここではボクの所有する卓上パチンコ機を紹介してみようと思う。

☆CRサンダーバード2C2003年(藤商事)

この台は番組の映像素材をフルに活用したタイアップ機で、
1号から5号まで全てのメカがリーチ演出に使われている。
CGのクオリティも高く演出も多彩で極めて上手だ。
54321の超有名なカウントダウン演出も備えているので
サンダーバードファンなら見ているだけでワクワクする
タイアップの名機と言えるだろう。

☆CRウッディウッドペッカーEX72004年
(マルホン)

原作を活かした美しいアニメーションが満載の機種。
メイン画面の中に更にサブ画面がある為演出も多彩になり
見る人を存分に楽しませてくれる。この機種はスペックも
魅力的だった。2R確変を搭載せず確変突入率が70%と言う
今では到底考えられない高確率で、一度大当たりすると、
運が良ければ20連チャン以上することもザラだった。
因みにボクの最高記録は自己最多の21連チャンだった。
サンダーバードと共にボクの一番のお気に入り機種だ。

☆CR必殺仕事人激闘編2003年(京楽)

テレビ朝日の人気時代劇番組とタイアップした機種で、
本機以降必殺シリーズとして現在も制作されている。
演出にレベル設定を設けたステップアップ予告や、画面に登
場する泥棒の服の色で期待度を示す定番の演出は既に本機で
確立されている。この他にもドラマ内の設定を効果的に使っ
た演出でプレイヤーを飽きさせない。その後本機の後継機と
して2007年にリリースされたCRぱちんこ必殺仕事人lllが大
ブレイクした事で京楽のタイアップ機は頂点を迎えた。

☆CRぱちんこ水戸黄門2005年(京楽)

TBSテレビの人気時代劇とタイアップした大人気台。
当時は大画面化の直前でまだ小さく見ずらかった。
画面に登場する助さんと格さんは、三代目のあおい輝彦と
伊吹吾郎であったが、黄門様はなぜか初代の東野栄治郎の
実際には無い組み合わせであった。これは恐らく版権又は
映像処理の関係であるかと思われる。演出は手馴れていて
画像も良く作り込まれており水戸黄門の雰囲気を良く表現
している。LEDを使用した強烈な発光装置による演出と、
印籠が正面に飛び出す斬新なギミックも話題を集めた。

☆CR.ぱちんこJAWS2006年(京楽)

ハリウッド映画のタイアップで大きな話題になった機種。
映画の名場面をCGで再現しその映像も使用されている。
この台最大の特長はバトルモードと呼ぶゲーム性である。
この台は確変図柄で大当たりすると捕獲モードに突入。
プレイヤーがジョーズを射止めれば大当たりが続くと
いうものでコレが多くのプレイヤーの心を掴んだ。

☆CR花満開極2004年(西陣)

タイアップ機では無いが、和風パチンコ機として人気を集め
た機種。女性をターゲットにした繊細な画面演出、大当たり
の期待値が高いほど、つぼみから花びらに成長するという、
保留玉変化の演出機能を備えている。
またClairが歌う、大当たり時に流れる哀愁感溢れるBGMも
話題になった。この機種の登場時頃から各メーカー共に
リーチ演出が長くなる傾向にありリーチ演出を丸ごとカット
できるスキップボタンを搭載していた。

2020年10月25日DESIGN STORY